タンザニア・フィールドレポート2023 その5

 漁港の朝が早いのは世界共有のようで,ここタンザニアでも夜明け前から黒山の人だかりです。今回の調査は漁村の視察がメインなので,一番活発になるこの時間を逃すわけにはいきません。これから先1カ月ほど,毎日夜明け前に起床する大変健康的な生活を送ることになりました。

 最初の調査地はTAFIRI Kyelaから最も近い位置にあるKafyofyo村の水揚場。カタカナで発音するとカフィオフィオとなり,大変かわいらしい名前です。マラウィ湖の北端西部に位置し,広大な遠浅の砂浜にポツンと存在します。大きな船が接岸する船着き場も無ければ,近隣の町から水揚場を繋ぐ舗装道もありません。漁港としてはあまり良い立地ではありませんが,マラウイ湖北西部は広大な平野となっており,近隣に適した場所がないのでしょう。ちなみに,マラウィ湖やヴィクトリア湖を含め内陸の湖は年間降水量などの影響でかなり水位が変動します。数年で1m以上上下する事もありますが,遠浅の地では湖岸線が100m以上変動するため,港湾施設の設置に対する大きな障壁になっています。舗装道で接続されていない事,近隣に倉庫や工場がない事もやむを得ない事情があるわけです。このように決して好適地とは言えない場所ですが,漁師や魚の仲買人,水揚場に集まる人々を当て込んだ行商人など,300人以上が恒常的に出入りする一大集積場となっていおり,マラウィ湖から得られる水産物が地域社会にとっていかに重要であるかが伺い知れます。

 夜明けとともに,沖合から魚を満載したボートが戻ってきました。夜間の漁で漁獲されるのはDagaaと呼ばれるコイ科の小魚(学名 Engraulicypris sardella)と,Manturaと呼ばれる沖合深層性のシクリッド(Diplotaxodon属の一種)が圧倒的に多く,その他にごく少数別種のシクリッドやコイ科の大型魚,ナマズ類が混獲されていました。ちなみに,Dagaaという名称は各地で漁獲される主要な小魚の総称であり(日本語で言うと雑魚くらいのニュアンス?),特定の種を指す言葉ではありません。マラウィ湖にはマラウィ湖のDagga,ヴィクトリア湖にはヴィクトリア湖の,タンガニイカ湖にはタンガニイカ湖のDagaaがいます。マラウイ湖のDagaaは,現地ではUsipaとも呼ばれています。ボートが上陸すると(波止場や桟橋などの施設はなく,砂浜に直接乗り上げます),バケツを持った仲買人や加工業者が我先に殺到して漁師から魚を買い上げます。漁獲された魚はボートの船底に貯蔵されますが,当然新しく新鮮な魚ほど上部に積み上げれます。船底の少し痛んだ魚よりも高く売れるため,先んじて魚を買い付けた人が得をするわけです。ボートの周りは黒山の人だかりとなり売買の声で大変な賑やかさとなります。一件無秩序に集まっているように見えますが,当人たちの間で阿吽の呼吸があるようで,買い付けを終えた仲買人はするっと現場から離脱し,往来で渋滞して言い争いするような光景はまったく見られませんでした。

 一通り水揚げの風景を視察した後は沿岸管理共同体(Beach Management Unit, BMU)のメンバーに集まってもらいヒアリングへ。BMUの現状や課題などについて話して貰いました。漁師が増えすぎたせいで漁獲が減っている,製氷機や乾燥機が欲しいが予算や立地に問題がある,など色々話して貰いましたが,総じて「BMUの働きにより様々な事が改善されて環境は良くなっている」という強い自負が伺えました。聞けば,マラウィ湖沿岸にBMUというシステムが定着したのは2020年以降なのだとか。若い組織が持つ活力のようなものが伺えたヒアリングとなりました。

 聞き取り調査を終え,皆で集合写真を撮影したあとでKafyofyoを離れKyelaに帰還。初の聞き取り調査はまずまずの成功を収めたと言ってよいかと思います。

 明日はマラウィ湖北東岸の村Matemaへ。タンザニア沿岸では最大規模のBMUがあるとの事で,比較的小規模なKafyofyoとの比較も気になるところです。