2018-01-26 Malimbe調査

 今日はLake Malimbeの調査です。ビクトリア湖に隣接した小さな湖で,「サテライトレイク」と呼称されます。標的はビクトリア湖固有のティラピア,Oreochromis esculentusです。元々は湖全域に生息していた種ですが,ナイルパーチなどと共に商業目的で移入されたナイルティラピアO. niloticusの影響で湖ほぼ全域から姿を消し,現在ではMalimbeのようなサテライトレイクに少数が生き延びています。今回の調査のために,専門家であるMzuku元研究員(定年退職)に協力を依頼しました。事前の打ち合わせでは「O. esculentusはいっぱいいるよ,採れる場所も分かる。ただ,最近ナイルティラピアとの交雑が進んでいて……」と気になるコメント。期待と不安半々で調査に向かいます。
 車にゴムボート他調査機材を積み込んで,いつもより1時間早く出発。湖岸まで車が入れず,機材を人力で運ばなければならない事,ゴムボートのセットアップに時間が掛かることを考慮しての時間設定です。鋪装道を逸れ,細くデコボコした道を進んで約30分。自動車を止めて機材を下ろし,重たいボートや氷入りのクーラーボックスを皆で手分けして運びます。両手の塞がった状態で岩と草まみれの細道を上り下りするのは中々の重労働。調査の前に早くも息が上がります。


 湖手前の岩山に機材を広げ一休憩。Mhoja達は早くもゴムボートの組立てに入ります。ゴムボートの底にアルミフレームと板をはめ込み,足踏みポンプで空気を送り込み……これも重労働,皆の額に汗が浮かびます。組み上がるのに40分程要し,皆でボートを持ち上げ湖畔まで運びます。下草を刈って道を作ったとはいえ,湖の周囲は一面の泥沼。一歩足を踏み出す度にふくらはぎの上まで沈み,真っ黒の泥水が足を覆います。

 不快感をこらえてようやく調査態勢が整いました。船外機は持ち込めないのでパドルで湖に繰り出します。(参考動画)透明度は約70cm。ビクトリア湖の普段調査しているポイントの透明度はだいたい100-250cm程度ですから,かなり濁っています。
 さてどこに網を落とすかな……と考えている所にトラブル発生。修理を終えたばかりなのに,横から勢いよく気泡が浮かんできます。湖の真ん中では応急処置もできませんので,絶えず空気を送り込みながら調査を続行します(参考動画)。慌ただしく網を下ろし,空気が抜けきらないうちに岸に上陸。待機していた農民に空気入れを手伝って貰い,網の回収は乗組員を減らすためMhoja, Mohammed両名に任せ,我々は岩場で待機です。

 1時間後,ボートが戻ってきたので再び泥道をかき分け魚の受取りに。Mhojaが差し出したバケツには中々の数のティラピアが泳いでいました。バケツを受取り,期待に胸を高鳴らせて写真撮影のため岩場に戻ろうとすると,バケツ満載の水の重量で足が太ももまで泥沼にはまってしまい,前にも後ろにも進めなく……「Nipe saidia! (助けて)」と悲鳴を上げるとMakoyeが大笑いしながら手を引っ張ってくれました。
 気を取り直して岩場に上り,写真撮影を開始します。写真を撮りながら,Msuku氏のレクチャーを受けます。「この体が白っぽいのはO. esculentus。こっちの黒っぽくて尾びれに縞模様が入ってるのはナイルティラピア。それで,この辺のが両種の交雑っぽい個体。尾びれに薄い縞模様が入ってるんだ」そう言われてティラピアを眺めると,O. esculentusの体色をしているけど尾びれの模様が怪しい個体がちらほら……いや,ちらほら所でなく過半数です。Msuku氏のコメントによると,彼がこの湖で最初にナイルティラピアを確認したのは2002年,その時はたった2個体だったそうです。わずか16年で過半数に至るまで交雑が進んだ事になります。ビクトリア湖における外来種問題というとナイルパーチが有名ですが,我々はナイルティラピアの移入もまた,深刻な環境問題であると認識しています。外来種問題は大きく分けて「外来の捕食者が在来種を食べ尽くす」「特定の生息環境を好む外来種が同一環境に生息する在来種を駆逐する」「外来種と在来種が交雑して遺伝子が置き換わる」などのパターンがありますが,ナイルパーチは1番目,ナイルティラピアは2番目と3番目の複合です。

 これは困ったな,と思いながら,できるだけO. esculentusの特徴の強い個体をより分けていきます。最終的に,目標数の6割程度の個体を暫定的に本種と同定し標本にしました。交雑っぽい個体も数個体より分けて標本にします。こちらは外部形態と遺伝子浸透の相関を調べるためのサンプルとして,将来の研究課題に取っておく予定です。
 数が足りないのでもう一度標本採集に来る必要がありますが,残された時間を考えると時間を取れるかどうか微妙なところです。頭を悩ませながら本日の調査を終えました。

2018-01-27 Malimbe再訪,自動車故障